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世界の中の憲法9条 |
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川崎哲(ピースボート共同代表) |
2006/07/27 |
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かつて小沢一郎は「普通の国」という表現を使って改憲を論じた。軍隊の不保持を定めた日本国憲法は世界的にみて異常であり、軍隊の保持が世界的には「普通」だというのだ。以来9条改憲論者たちは、9条の非常識さを強調し、改憲こそ日本を世界標準に合わせる道だと説く。多くの日本人は「世界標準」の言葉に弱いから、この議論は効果的なのかもしれない。
これに対して爆笑問題の太田光は、「憲法9条を世界遺産へ」とうたい、憲法9条は「突然変異」なのであり、その誕生は「一つの奇蹟」なのだからこそ大事にしなければならない、という議論を展開している(注1) 。
日本国憲法9条が世界的にみて特殊なものであることは揺るがぬ事実である。問題は、この特殊性を今後我々がどうするかである。捨てるのか、活かすのか。日本の市民は、そのことの最終判断を下す前に、この特殊なものを世界がどう見ているのかについて知らなければならない。
■ハーグ平和アピール(HAP)
1999年5月、北大西洋条約機構(NATO)によるユーゴスラビア空爆の中、オランダのハーグで「ハーグ平和アピール」国際市民会議(HAP)が開催され、世界から1万人が集まった (注2)。アナン国連事務総長も参加した。HAPは、「今こそ戦争を廃絶しよう」のかけ声の下、「21世紀の平和と正義のためのハーグ・アジェンダ」を採択した。併せて発表された「公正な世界秩序のための10の基本原則」は、第1項目で「各国議会は、日本国憲法9条のような、政府が戦争をすることを禁止する決議を採択すべきである」とうたった。
「ハーグ・アジェンダ」は、(1) 戦争の根源と平和の文化、(2) 国際人道・人権法、(3) 紛争の予防・解決・転換、(4) 軍縮と人間の安全保障という4本の柱を軸に、戦争廃絶のための50項目の行動提言を並べた(注3)。また、「10の基本原則」の第10項目は、「戦争防止地球行動(GAPW)の計画が平和な世界秩序の基礎になるべきである」と述べた。GAPWとは、軍縮をすすめ各国の軍隊を削減し国連部隊に集約させていくという数十年単位の世界的行動計画を提唱している国際NGOである(注4)。つまり、戦争廃絶のための世界的な行動計画の論議の中で、日本の9条がその象徴として位置づけられたのである。
■武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ(GPPAC)
2001年6月、アナン事務総長は報告書「武力紛争予防」を出し、紛争予防が国連加盟国の「主要義務」の一つであると訴えると共に、NGOに対して「紛争予防に関する大規模な国際会議」を開催することを勧告した。
これを受けて、オランダのNGO「欧州紛争予防センター」(ECCP)が中心となり、世界的プロジェクト「武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ」(GPPAC)が始動した(注5)。GPPACは世界を15地域に分け、それぞれで紛争予防のための地域提言が策定された。
東北アジアでは、日本のピースボートなどが推進役となり、地域プロセスが2004年から開始された。2005年2月、東京・国連大学で東北アジア地域会議が開催され、日本、韓国、中国本土、台湾、香港、モンゴル、極東ロシアのNGOが一堂に会して地域の紛争予防を論議した。
ここで採択されたGPPAC東北アジア地域提言「東京アジェンダ――平和のための地域的メカニズムの創造をめざして」は、東北アジアを覆う冷戦構造を平和体制に転換していくことの重要性と緊急性を訴えた。そして、「日本国憲法9条の原則は、普遍的価値を有するものと認知されるべきであって、東北アジア平和の基盤として活用されるべきである」(前文)とうたった(注6)。日本の9条擁護は、地域の平和にとっての優先課題であることも確認された。
一方、同年7月にはGPPAC世界会議が国連本部で開催され、NGO、外交官、国連職員など1,000人が集まった。会議では、世界各地域の地域提言をまとめ上げたGPPAC世界提言「人々が平和を築く」が国連事務総長宛に提出された。世界提言は、紛争への「反応」から紛争の「予防」へと発想転換が必要であることを強調し、国連、地域機関、政府、市民社会の連携をうたった。そして、紛争予防の実践例として日本国憲法9条を取り上げ、「日本国憲法9条は、アジア太平洋地域全体の集団安全保障の土台となってきた」と評価した(注7)。
地域紛争の頻発の中、武力紛争の予防と解決は「待ったなし」の世界的課題だ。その中でGPPACは、「公正な平和を平和的手段によって達成する」ことを基本理念の第一に掲げた。まさに日本の9条の「武力によらない紛争解決」の原則の世界的適用である。
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| *GPPAC世界会議(2005年7月、ニューヨーク国連本部) |
*GPPAC世界会議での平和憲法ワークショップ(2005年7月、ニューヨーク国連本部会議室) |
■世界平和フォーラム(WPF)
2006年6月、カナダのバンクーバーで第1回「世界平和フォーラム」(WPF)が開催された。非核平和都市として平和の伝統のあるバンクーバー市が、地元の市民団体と連携して実現したイニシアティブである(注8)。先住民、女性、移民、労働者、平和教育、核廃絶、中東、アジアなどをテーマに数百のワークショップが開かれた。イラク占領の終結やパレスチナ・イスラエルの平和を掲げて数万人のピースウォークが行われた。
WPFでは、平和運動が、経済・環境や社会的正義・人権の運動と連携することの重要性が強調された。経済のグローバル化と格差拡大、世界的な暴力と軍事化の連鎖は一体のものとして進行している。「シングル・イシュー主義」は乗り越えなければならないというのだ。
WPFが採択した最終文書は、全10項目の基本要求の第6項目に「各国政府は、軍事費を削減し人間のニーズに投資すること」をうたい、第7項目に「各国政府は、日本の9条のように、憲法により戦争を放棄すること」を呼びかけた(注9)。9条は、世界の非軍事化と民生転換のための重要な装置として評価されたのである。
WPFにおいて国際平和ビューロー(IPB)は、「世界の人的・経済的資源の軍備転用を最小限にすること」を定めた国連憲章第26条を土台に「軍縮を通じた開発」を求める運動を呼びかけた(注10)。貧困半減を定めた国連の行動計画「ミレニアム開発目標」(MDG)は、大胆な軍縮なしには実現しないというのだ。また、各国政府に「平和省」を創設する運動もWPFで展開された(注11)。これらはいずれも、9条の理念に基づく世界的なアクションと位置づけることができる。
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| *GPPAC東北アジア地域会議のシンポジウム(2005年2月、東京・国連大学) |
*バンクーバー、WPFにおける数万人のピースウォーク(2006年6月24日) |
■グローバル9条キャンペーン
ピースボートは、これら国際的なNGOと連携して、9条の世界化の運動に取り組んでいる。GPPAC東北アジア地域会議をきっかけに誕生した「グローバル9条キャンペーン」は、昨年8月15日に全世界同時9条意見広告を実現したほか、昨年11月3日には日韓同時9条アクションを行った。先のWPFにおいては、憲法9条ワークショップを、「バンクーバー9条の会」、米国、韓国、コスタリカのNGOなどと共に実現した。また、ニューヨーク国連本部前に新組織「ピースボートUS」を立ち上げ、9条の普及と促進のキャンペーンに着手している(注12)。
世界の市民にとって、9条は非常識なものでは決してない。ただ、知らないだけなのだ。9条の存在を知ったとき、多くの人が共感し、合理性を感じている。世界は9条に注目を始めている。それを生かすも殺すも、日本市民の選択と行動にかかっている。
(2006年7月23日)
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| *WPFにおいて行われた「9条ワークショップ)(2006年6月26日、ブリティッシュコロンビア大学) |
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注1 『すばる』2006年8月号、集英社
注2 ハーグ平和アピール
注3 「21世紀の平和と正義のためのハーグ・アジェンダ」および「公正な世界秩序のための10の基本原則」の日本語訳は、B.リアドン他著『戦争をなくすための平和教育』明石書店(2005)所収。
注4 戦争防止地球行動(GAPW) ※行動計画の日本語訳
注5 武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ
注6 GPPAC東北アジア地域提言(日本語訳)
注7 GPPAC世界提言(日本語訳)
注8 世界平和フォーラム
注9 WPFの報告および最終文書
注10 国際平和ビューロー
「持続的な軍縮を通じた持続可能な開発」キャンペーン
注11 平和省のための世界同盟
注12 ピースボートUS
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