ドキュメンタリー映画「シリーズ憲法とともに歩む」
 
憲法ー歴史・未来館
  航空労働者と労働組合は憲法にどう向き合ってきたか
航空労組連絡会
2006/08/17

「民間航空は平和産業である。世界の平和なくして民間航空の発展はない」これは、かつて日本航空の最高経営責任者であった兼子勲氏の言葉である。民間航空は政治・経済・文化などあらゆる分野で、国際交流の架け橋として世界の平和に大きく貢献してきた産業の一つである。また平和でなければ民間航空産業そのものも成り立たない。現に湾岸戦争やイラク戦争では戦争当事国周辺の航空需要の落ち込みにとどまらず、世界各地でテロやハイジャックの危険性が高まり、保安体制が強化される中で、旅客への心理的影響もあって航空の需要は低迷した。1987年のアンダマン海での大韓航空機爆破テロ事件や、1988年のスコットランド上空でのパンアメリカン航空爆破テロ事件、2001年の米国同時多発テロ事件などは象徴的事件であるが、他にも数々の民間機がテロの標的とされてきた。そして航空機でのテロやハイジャックが起こるたびに航空労働者は犠牲となってきた。そのために航空労働者の「平和」「安全」への意識は高い。それは職場確保といった問題だけではなく、自らの命の問題として受け止めているからである。

戦後、民間航空は国際民間航空条約のもとで今日まで発展してきている。日本の航空法も国際民間航空条約に準拠し、安全と秩序維持の目的で制定されている。国際民間航空条約の最大の特徴は「加盟各国の排他的主権」を認めると共に「民間航空の濫用は安全に対する脅威」であると規定し、その濫用を禁止すると共に締結国にその厳格な運用を求めていることである。そのために条約は、民間航空機と国の航空機とを区別し、軍や警察などの航空機は、国の航空機と定義して条約の適用をしていない。つまり民間機で軍隊や軍需品を運ぶことなどは例外を除き原則禁止しているのである。ところが、航空法には日本の民間機に関して軍需品輸送を規定する文言そのものが何処にもない。想定していないのだ。その最大の理由は、憲法9条が「戦争の放棄と戦力及び交戦権の否認」を規定しているために、航空法は軍需といった発想を持ち合わせていないためである。これは日本国憲法が国際民間航空条約に優先するからであり、よって今日まで日本の民間機で軍需品の輸送は行われていない。有事関連法が論議された2003年5月9日の国会の政府答弁でも「これまで日本の民間機が武器・弾薬を運んだ実績はない」と認めている。

民間航空が軍事利用される問題は民間航空にとっては死活問題である。戦後、ベトナム戦争やイラン・イラク戦争、湾岸戦争の時に民間機利用の動きはあったものの、本格的に軍事利用の圧力が高まってきたのは1997年の日米新ガイドラインの時期からである。1997年6月30日、全日空のボーイング767型機が沖縄の嘉手納基地から横田基地まで米軍海兵隊を輸送した事件があった。当初会社側は「商業ベースによる通常のチャーター便」との説明をしていたが、労働組合や市民団体からの抗議や反発の中で、後に会社側は「武器・弾薬が輸送されることもあり得ることを承知していた」ことを明らかにした。世論の反応の大きさに会社側が追い詰められた格好となったのである。その結果、帰路の便では予定された日本エアシステム機でのチャーター運航は取りやめとなった。この問題は後日国会で論議され、政府見解として、当該便は民間機の運航には当たらない「国の航空機」と認めた初めてのケースとなった。つまり、チャーターされた全日空機は日米地位協定第5条に当たる航空機であり、アメリカ合衆国によってその管理の下の運航であったと認めたのである。端的に言えば、全日空機が日本の航空法の適用除外とされている米軍機として扱われたことなのである。
また1998年1月に、那覇空港で日本航空の関西空港行きの便に、米軍の小火器類と火薬4箱、総量57キロが貨物室に搭載されたために、機長が「安全性が確保できない」と判断し取り下ろした事例が発生した。当該機長の判断は航空法上の機長権限の範囲として何ら問題とされなかった。その後、日本航空は軍事物資を受託しても機長の判断で取り下ろすことになれば現場が混乱するとの判断で、米軍人などの拳銃や受託手荷物を取り扱わない内規をまとめている。このように航空法に則り、機長判断を優先させ、会社の運用を変えさせた背景には「民間機の軍事利用は安全を脅かす」と一貫して反対してきた当該労働組合の運動があったこと。また当時、陸海空港湾労組20団体などで、日米新ガイドライン法に反対する運動が取り組まれていたことなどが挙げられる。しかしその後政府は、上述の二例を否定するかのように、1998年5月の周辺事態法の国会で「銃砲等の武器・弾薬についても、梱包方法など安全基準を満たせば輸送は可能」とそれまでの考え方を一変させたのである。そしてもう一つ注目すべきことは、この時期から、航空会社の自粛要請や労働組合の反対にもかかわらず、民間の定期便に自衛隊員が団体で、迷彩服(戦闘服)姿で搭乗するケースが目立ってきているのである。

昨今、民間機を後方支援として利用しようとする動きが強まってきている。周辺事態法の成立を受けた後の2000年8月には、米国国防総省から防衛施設庁を通して民間航空3社に米軍輸送資格取得の要請があった。これに対して、乗員の組合や航空連加盟組合が「米軍の起こす戦争に巻き込まれ、空の安全を脅かす」として反対する運動を展開した。日本航空内では乗員組合がこの問題で90、6%の高率で争議権を確立するなど職場全体の関心は高まった。その結果、航空3社は定期航空協会を通じて防衛施設庁に受け入れられない旨を明らかにしている。しかしその後も航空各社に対して米軍輸送資格取得を要請する圧力は収まっていない。2005年の総選挙を前に航空連の行った全政党アンケートの中で自民党は「民間航空会社は米軍輸送資格を取得すべき」と答えているのである。

2003年に武力攻撃事態対処法、国民保護法が成立し、翌年の9月には航空会社は「指定公共機関に」指定された。また自衛隊法103条も改定され、政令で交通運輸産業は業務従事命令対象者に指定された。そして、2006年3月には航空各社から各組合に国民保護法に関する「指定公共機関」としての「業務計画」の説明が行われした。内容の主な点は、@安全性が担保されることA強制ではなく事業者が自主的に判断できることB航空法等関連する法令の範囲内で遵法性が担保されることの3点で、あくまでも現行法が適用され、業務命令や指示は就業規則に沿ったもので従来と何ら変わりないことが強調された。これは現在の有事関連法だけでは政府の考える総動員体制が発揮できないことを物語っている。
今日地球規模での日米同盟が叫ばれ、米軍再編が進められようとしている。そうした中で米国からの改憲圧力も強まっている。日本の民間航空は私たちの闘いの反映もあって、これまで軍事とは一線を画して存在してきた。それは前述のように憲法9条が歯止めとなってきたからである。自民党の改憲草案のように何よりも国家が優先され、民間機の軍事利用が進められる様なことになれ、もはや民間航空としての存在意義はなくなるのである。安全と公共性を守り国民に信頼される民間航空として発展させるためには、民間航空の労働者が戦争の加害者にも被害者にもならないことが重要である。憲法9条を守り発展させることは航空労働者にとっても益々重要な闘いとなっている。


 
企画:橘祐典、片桐直樹、大澤豊 
第一篇監督・脚本:片桐直樹 90分 短縮版
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